医療と介護の連携推進のゆくえを考える

2024.09.13

令和6年度は診療報酬・介護報酬同時改定であり、看取り重視、医療・介護連携の重視となる見直しが行われました。介護報酬においては、様々なサービス分類において看取りに関連する加算の拡充や創設が行われるとともに、医療との連携強化も様々な評価が行われることになりました。とりわけ注目すべきは、施設・居住系サービスにおいて、協力医療機関との連携体制において、名目上の連携ではなく、実効性のある連携が求められる見直しが行われました。加えて、連携に対する評価を行う「協力医療機関関連加算」が創設されました。

これまで、医療と介護の連携推進は長年にわたっての大きな課題とされていましたが、その実現に向けた困難さは言わずもがなであり、未だ確たる連携スキームが構築されていない状況にあります。そのような情勢の中、長引くコロナ禍による社会及び生活のあり様が大きく変化を遂げたことを契機に、医療と介護の連携推進についても、新たなステージに向けて動き出していると感じます。前述の通り、人口構造を踏まえた「生産性向上」が求められ中、コロナ禍による「新しい生活様式」に基づき、医療・介護業界においても数多くの変化がもたらされています。とりわけ、オンライン化・DX(デジタルトランスフォーメーション)化が、従来は比較的苦手意識が強く、忌避されてきた医療・介護業界に否応なく導入に向けた機運が高まってきています。

令和6年度介護報酬改定による対応以前より、政府では「生産性向上」に向けた事業者に対する支援策の拡充を様々に推進しています。押印が必要な文書を大幅に削減し、保管すべき書類のデジタル化を推進するとともに、今後は、指定申請など行政提出書類のオンライン化や、電子申請の仕組みの導入に向けた準備も進められています。また、在宅介護の分野で本格導入された「ケアプランデータ連携システム」は今後の大注目の取組みとなります。従来、介護事業所間の書類のやりとりはほとんど紙で行われており、FAXによる書類のやりとりが主流となっており、効率性の観点からも大きな課題であると指摘され続けていました。一部、先進的な取組みを行っている事業者では社内・事業所内のデジタル化が促進されているケースも多く見受けられますが、他事業所とのやりとりの際には相手側の事業所がデジタル対応していなければ、紙でのやりとりを強いられることとなります。とりわけ在宅介護事業所においては、居宅介護支援事業所のケアマネジャーが中核的役割を担っているものの、ケアマネジャーの多くが総じてデジタル化への対応に遅れているとの課題指摘もされているところです。更に、もう1つの課題は、相互システムの連携です。ケアプランや記録、更には介護報酬を請求するレセプトのシステムは、数多のメーカーが商品を開発していることから、事業所が導入しているシステムの仕様が異なることで、データ連携がスムーズに進まないことも多く、IT連携を阻害している大きな要因の1つとなっています。「ケアプランデータ連携システム」では、居宅介護支援事業所と介護事業所間のケアプランに関連する様々なデータ連携を可能とする政府主導の統一プラットフォームであります。まだまだ導入率に課題がありますが、今後の更なる現場への導入が期待されるところです。

介護事業所間のIT連携が進むこととなれば、医療と介護のIT連携も推進されることとなります。要介護高齢者の多くは基礎疾患を抱えており、適切なケアマネジメントの実践及び、介護サービスの提供に際しては、医療機関からの情報提供が不可欠であります。更には、日々の生活支援においても緊急時の対応のみならず、健康管理や服薬管理など、様々な場面で、医療と介護の連携が不可欠であることは言うまでもありません。介護事業所間以上に、これまでのところは、医療と介護の連携は、IT連携を含めて課題が山積されている状況にあり、システム連携は限られた一部のケースを除くとほとんど行われておらず、紙でのデータのやりとりが中心となっています。更には、治療を目的とする医療と、生活支援を目的とする介護では、高齢者に対するアプローチ方法が異なることから、コミュニケーションエラーが生じることも多く、医療的な知識の不足している介護従事者の多くは、医療関係者とのコミュニケーションを図ることに苦手意識を感じていることは否めません。これらの課題を解決し、医療と介護の連携促進を図ることは容易なことではありません。しかしながら、その連携を進めていくためのキーワードの1つがIT連携にあることは間違いないと思っています。ITツールの活用においては、双方が苦手意識を有しているものの共通言語で課題解決に向けた話し合いを持つことが出来ることからも、ITによる連携を進めていくことを最初に始めていくことで、医療と介護の連携を強化していくための第一歩とすることが出来ると思います。

また、「科学的介護の推進」も医療と介護の連携強化に繋がる重要な要素であると思います。「LIFE」の運用においては、利用者個々の「疾病の状況」「服薬情報」の収集も介護事業所で求められます。将来的には、マイナンバーカードを通じた医療機関と介護事業所での利用者情報を一体的に管理するデータベースの構築も期待されます。時間は要するかもしれませんが、介護現場において、エビデンスに基づく科学的介護の実践が根付くこととなれば、介護従事者と医療関係者のコミュニケーションにおいても共通言語が存在することとなり、コミュニケーションの円滑化に繋がることも大いに期待されるところであります。介護の現場においては、いわゆる医療行為に対するルールの緩和も求められており、介護現場での医療行為の実践においては、医療との連携は不可欠であります。

以上、医療と介護の連携における現状と課題の整理とともに、これからの時代の変化によってIT連携から始まる医療と介護の連携推進の可能性をまとめました。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/