最低賃金の引き上げ額が正式決定。影響と対策を読み解く

2024.09.20

7月に開催された厚生労働省の審議会において、今年度の最低賃金の目安を全国平均50円程度引き上げる方向性が示されていましたが、全国の都道府県労働局の審議会によって全国平均51円の引き上げとなる答申が取りまとめられました。この最低賃金の大幅引き上げによる介護現場への影響について、改めて深堀して論考したいと思います。

最低賃金の大幅な引き上げは、長引く物価高騰の影響を受ける中、介護職員にとっては、更なる処遇改善へと繋がる可能性もあり、大いに歓迎されることです。

一方で、介護事業者にとっては、人件費の増加による収益の圧迫へと繋がる経営への影響は大変大きいと想定されます。一方で、現在の介護現場における圧倒的な人手不足の状況に加えて、処遇改善加算の上乗せなどの政策が進められている中で、「最低賃金での給与設定を行っている介護事業者が存在するのか?」「最低賃金での給与設定では、到底介護人材を採用することは出来ない」といった声も多数聞かれており、介護事業者への影響が本当にあるのだろうかとの疑問の声も聞かれます。

その疑問への答えは、結論から申し上げれば、「事業者ごとに影響度合いは異なる。」という当然の回答となります。各社がどのような給与規程としているかであり、無資格・未経験等の人材雇用に際して最低賃金をベースに給与規程を整備している場合には、当然影響が生じることになりますが、給与規程における最低金額が最低賃金を上回る設定としている場合には当然影響はありません。後はその影響の生じる事業者の割合がどの程度となるか。大多数に影響を及ぼすのか。一部の極めて限定的な影響となるのか。その影響の範囲が重要であります。

各社の給与規程の詳細把握は行われているわけではありませんので、正確な情報が存在しない中でのあくまで私の感覚による表現となり恐縮ですが、私は、ほとんどの事業者に影響が生じるほどではないものの、一定割合の事業者に影響が生じると感じています。少なくとも影響が極めて限定的な一部の事業者のみではないと思います。

これは地域差もあると思います。総じて、都心部の有効求人倍率の高い地域では、最低賃金以上を最低ベースとした賃金規程となっている事業者が多く、地方の有効求人倍率がまだ比較的低い地域では、その限りではないことは容易に想像のつくことです。しかしながら、都心部などの地域においても、正社員や常勤職員の給与は、全員が最低賃金を上回る規程となっている事業者でも、非常勤職員や時給設定の職員の最低ベースの賃金は、最低賃金設定としている事業者は少なくないと思います。また、介護事業所には介護職員以外にも他職種が勤務をしており、例えば、介護補助者や、清掃職員、送迎ドライバーなどの職員の給与は最低賃金としている事業者はかなり多いのではないかと考えられます。

その対象となる職員に対する最低賃金の上昇による対応によって、人件費増へと繋がることは当然として、更には賃金テーブルが用意されている場合には、現状、最低賃金で働いている職員の給与だけを引き上げる対応で済むわけではなく、その他職員の処遇も段階的に引き上げなければならない可能性も生じます。そういった意味では、私はやはり、今回の最低賃金の大幅な引き上げは、介護事業者にとっては大きな影響が生じると言わざるを得ないと思います。

この最大上げ幅の最低賃金が開始されることとなれば、事業者の経営努力だけでは対応に限界が生じることとなり、政府による介護事業者に対する追加支援策や、新たなる処遇改善の手立てを検討いただきたいと思います。今後も最低賃金は毎年見直される可能性が高く、3年に1度の報酬改定では対応は難しいのではないでしょうか。報酬改定の頻度の短縮の検討、少なくとも処遇改善加算のみは毎年度検討していく仕組みが介護現場では、求められていると思います。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/