ホスピス型有料老人ホームを取り巻く考察

2024.11.01

ここ数年、サ高住や住宅型有料老人ホーム等の集合住宅における終末期(ターミナル)の利用者や特定疾病を有する利用者を対象とした施設が、ホスピス型有料老人ホームとして注目されています。専業で株式を上場している会社も数社出ており、全国に急速に拡大しています。一方で、医療・介護の高い専門性を有するサービス提供が求められる中、一部に専門性の欠けた事業者の存在や、コンプライアンスへの課題、更には画一的な過剰サービスの提供など様々な問題が見え隠れしています。今年に入ってから、地方新聞を通じて全国でホスピス型有料老人ホームに対する警鐘を鳴らす記事が複数回掲載されており、一部の悪質な事業者による取組みの指摘や、上場企業でも不適切な対応が存在するのではないかと疑義を指摘する内容となっており、業界に大きな波紋を投げかけています。ただし、記事の内容はあくまで退職した職員等からの匿名での取材内容を中心にまとめられており、対象法人の事業所において、指定権者による監査等の指摘を受けている状況ではなく、冷静な受け止めが必要であると感じています。

しかしながら、このような世論の声を受けて、厚労省は令和6年10月22日に『指定訪問看護の提供に関する取扱方針について』と事務連絡を発出しました。事務連絡では「訪問看護の日数等については、訪問看護ステーションの看護師等が訪問時に把握した利用者や家族等の状況に即して、主治医から交付された訪問看護指示書に基づき検討されるものであることから、訪問看護ステーションの看護師等が利用者の個別の状況を踏まえずに一律に訪問看護の日数等を定めるといったことや、利用者の居宅への訪問に直接携わっていない指定訪問看護事業者の開設者等が訪問看護の日数等を定めるといったことは認められないことに留意すること。」と記されており、改めて画一的な対応を戒める方針が示されたところです。

ホスピス型有料老人ホームの多くは、介護保険制度の訪問介護と、医療保険制度の訪問看護を組み合わせたサービスモデルであり、2027年介護報酬改定に向けて「骨太方針2024」において、集合住宅に対する過剰サービスへの対策を講ずる方針が示されており、厳しい改定が予測されます。加えて、より収入への影響が大きい訪問看護は、2026年診療報酬改定において見直しが行われることとなります。現時点では、まだ、次期改定に向けた具体的な問題提起はなされておりませんが、昨年の中医協ですでに指摘されており、2024年改定では限定的な見直しが行われたことから、次期改定においても本件が議論されることは想像に難くありません。今後の議論はこれからであり、どの程度のレベルでの見直しや、報酬の適正化へと繋がるのかが、今後の大きな注目ポイントであります。

ただし、昨今の報道内容は、繰り返しますが、あくまで一部の内部情報のみの記事であり真偽は不明です。指定権者による監査や指導の無い中で、一方的に非難することは控えるべきであると思います。また、厚労省からの事務連絡の通り、利用者の状態にかかわらず一律に回数を定めた訪問看護は当然ながら不適切ですが、加算を含めた1日当たりの訪問回数は制限をされており、終末期(ターミナル)の利用者に対しては、この制限の範囲の回数で訪問をおさめることは極めて難しい状況があり、結果としてほとんどの利用者が上限回数に達している状況にあります。加えて、上限回数を超えた報酬に該当しない訪問も多数行っていると運営事業者は指摘しています。このような回数が一律となる利用者が多数となっている背景を理解しておく必要があると思います。

いずれにせよ、私が問題視すべきは、訪問介護も同様ですが、利用者の状態にかかわらず画一なサービス内容での提供を行うことは明らかな問題であります。全利用者が一言一句同じ内容のケアプランが存在することを見聞きしたこともあります。個別性を踏まえたケアプランに基づく介護サービスと、指示書に基づく適切な訪問看護が求められることであり、結果として上限の回数に到達することは問題にはならないと思います。

ホスピス型有料老人ホームは、あくまで名称も通称に過ぎず、公的に位置づけられているサービス形態ではありません。今後このサービス形態のゆくえを議論することは、介護・医療保険制度全体にも影響を及ぼすことでもあり、現場実態を正しく捉えた制度改革が求められていると思います。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/