追加経済対策における介護分野の支援策の予算案と中身について

2024.12.13

前回に引き続き、11月22日に閣議決定された「新たな総合経済対策」の予算案と中身が見えてまいりましたので、その解説をいたします。11月29日には今年度補正予算案が閣議決定され、現在開かれている臨時国会において審議されます。与党が過半数割れの中、先行きが不透明な部分もありますが、すでに与党は国民民主党とのすり合わせを終えているので、原案通りの成立に向けた議論の展開が予測されます。物価高への対応などを柱として、事業規模は39兆円程度となる大型の補正予算となります。

この対策において、介護分野に対する支援策も盛り込まれています。具体的には『足元の人材確保の課題に対応する観点から、令和6年度報酬改定において講じた医療・介護・障害福祉分野の職員の処遇を改善するための措置を確実に届け、賃上げを実現するとともに、生産性向上・職場環境改善等による更なる賃上げ等を支援することとし、職員の負担軽減・業務効率化、テクノロジー・ICT機器の活用、経営の協働化、 訪問介護の提供体制の確保、障害者就労施設の経営改善といった取組を支援する。』と記載されています。

まずは、介護従事者への更なる処遇改善の方向性が示されました。これは令和6年度の介護報酬改定における処遇改善加算の1本化と単位数の上増しに加えて、来年(令和7年)以降での更なる処遇改善に繋がります。予算規模は806億円、介護職員1人辺り5.4万円となり、月額改善9000円を6ヶ月分と想定されています。支給対象は、処遇改善加算の算定事業所であり、生産性向上や職場環境改善への取組みを行っていることが算定要件となりますが、算定要件は比較的ハードルが低くなるような相違工夫も検討されています。ただし、今回の予算は、必ずしも職員への支給のみに限定されたものではなく、事業者の支援費として活用することも出来るため、職員の処遇改善にどの程度寄与するかは懐疑的な側面もあります。加えて、懸念点は、支給対象に居宅介護支援事業所はまたも外れることとなり、現場のケアマネジャーからの強い反発が予測されます。しかしながら、居宅介護支援に対しては、現在、「ケアマネジメントの諸課題に関する検討会」において中間整理案が示されており、その中で、「他産業・同業他職種に見劣りしない処遇を確保する」との記載が盛り込まれていることから、この中間整理の中身が確定した後に、対策が検討されていくスケジュールとなるため、これからの改善策に期待したいところです。合わせて、この機会に、1本化された処遇改善加算の算定率を高めるための要件緩和の措置が講じられる可能性も示唆されており、この点は大きな期待を寄せたいと思います。

その他、事業者に対しては、テクノロジー活用や零細事業者の協働化に向けた支援事業が予算規模200億円となっています。基金を活用して従来から予算化されていたICT機器等に対する補助金の延長線上になると思います。注目ポイントに「小規模事業者を含む事業者グループが協働して行う職場環境改善」に向けた支援策が示されており、合同での人材募集費などの補助が行われます。

そして、最後に、令和6年度介護報酬改定で基本単位がマイナスとなった訪問介護に対する提供体制の確保支援も示されています。ただし、すでに厚労省より来年度(令和7年度)概算予算の要求において、訪問介護の支援策3つが示されており、その支援策の先行的な対応となる中身が示されています。具体的には、①訪問介護等サービス提供体制確保支援事業として、人材確保に向けた研修体系の整備や、ヘルパー同行支援に係るかかり増し経費等の予算。②介護人材確保のための福祉施策と労働施策の連携体制の強化として、介護人材確保に向けた複合的な支援策の予算。③ホームヘルパーの魅力発信のための広報事業として、ヘルパーの魅力発信への広報を行っていく予算。となります。①②の予算は訪問介護だけに限定したものではなく、また、予算運用は自治体の裁量によるところが大きいため、全国の訪問介護事業者にくまなく配分されるか疑問が残ります。予算の具体的活用方法を、どの程度自治体に対して強く明示していくのか?運用面でのこれからの工夫が求められます。

いずれにしても、今後の国会での議論のゆくえと、具体的な支援策の詳細決定に注目していくとともに、速やかな支援策の実行を期待したいと思います。合わせて、不足と感じる支援については来年度(令和7年)予算においての更なる対応を期待したいと思います。特に、従事者に対する処遇改善は、6ヶ月分の予算として想定されており、それ以降の予算確保や、更なる対応がどのようになるかは今後の大きなポイントとなります。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/