第4回 8050問題とは

2025.06.18

8050問題とは

現在、ひきこもり者は115.4万人(15~39歳は54.1万人、40~64歳は61.3万人)と推計され、その長期化・親の高年齢化が社会問題となっています。近年、40~50代のひきこもり者を支える親が70~80代にさしかかり、精神的・経済的に限界を迎えた、いわゆる「8050問題」が深刻化しています。親が現役で働き、収入がある間は無収入の子を支えることが可能であるため、社会問題として顕在化することはありません。しかし、親が定年退職し、年金生活になってもなお子どもの面倒を見なければならないと生活が困窮します。親自身の高齢化で介護が必要になるなどして問題が顕在化してきました。

これまで、ひきこもりは社会問題として直視されることなく、本人や家族の問題として取り扱い、法制度の狭間でたらい回しにされてきました。例えば「ひきこもりに関する支援先は県や保健所で、市ではない」「ここは不登校を扱うところで、学校に籍がなければ対象ではない」「若者支援の対象者は39歳まで」「障害者ではないので障害施策は使えない」などでした。

家族が藁をもすがる思いで相談窓口にたどり着いても、話を聞くだけで終わりでは、支援と言えるでしょうか。「連携」という名のもと、他の窓口を紹介されます。家族は「今度こそ」という期待と不安の中、次の相談窓口を訪れます。しかし、同じことが繰り返され、ことごとく期待を裏切られます。そして「親が問題」と責められ、理解されない苦しさと先が見えない不安に押しつぶされ、地獄のような毎日に疲弊していきます。

相談窓口を8カ所、10カ所と「たらい回し」にされた結果、「相談しても理解してもらえない。親がこの子を守るしかない」と追い込まれていきます。あきらめ、腹をくくり、次第に家族も社会から孤立せざるを得なかったのです。数年前から、親の死体遺棄、親子の餓死、無理心中、親子殺人など、ひきこもりに関連した事件が相次いで明るみになってきました。これらはひきこもりの子どもを抱える家族への支援が行き届かず、親子共に社会から孤立した状況に置かれてきたことの悲しい結末と言えます。

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​山根 俊恵 氏

山口大学 名誉教授
NPO法人ふらっとコミュニティ🄬 理事長
(株)ふらっとCOMM. 代表取締役
精神障害者やひきこもり者が住み慣れた地域で自分らしく生活するための地域支援を展開している団体。

〈執筆書籍〉
「8050問題 本人・家族の心をひらく支援のポイント」 中央法規出版 2024年
「チームで取り組む ケアマネ・医療・福祉職のための精神疾患ガイド: 押さえておきたいかかわりのポイント」(担当:共編者) 中央法規出版 2020年
など多数