第5回 8050問題②:対人援助者としてのコミュニケーションのあり方

2025.07.16

「寄り添う支援」とは何か

近年、医療・福祉分野で「寄り添う」という言葉を耳にすることが増えました。皆さんも日常的に「利用者に寄り添う支援を行っています」などと使っていないでしょうか。いったい、誰に、どのような支援をすることが「寄り添う」ということになるのでしょうか。その言葉を使っただけで寄り添った気になってはいないでしょうか。

元々は「もたれかかる、傍に寄る」という意味があります。しかし、一般的には、傍にいるだけではなく、相手の気持ちに共感して、自分の気持ちと相手の気持ちを同調させるといった意味を含んでいます。つまり「共感」と「喜怒哀楽などの相手の感情を共有すること」だと思います。「思いに寄り添う」という使われ方をすることも多いように、傍で支える存在といった役割があります。一般的には「対象者の辛さを少しでも軽減したい」「その人らしい生活を支えたい」という支援者の思いを指すのだと思います。信頼関係を構築し、専門的な知識を活用しつつ、親身になってどうしたら良いのかを考え、伴走者として相手のペースに合わせて共に歩んでいくといったイメージでしょうか。

しかし、寄り添うことを「要求に応える」ことだと勘違いしてしまう人もいます。頼まれたことを何でもやってしまう場合は、「要求・要望」と「ニーズ」の見極めができていないことになります。場合によっては、依存心を高め、結果として自立を損なう危険性があることも理解しておかなければなりません。対象者に何かをすることで自分自身が満足するのではなく、本人の持っている力を見極めながらエンパワーすることが大切なのです。

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​山根 俊恵 氏

山口大学 名誉教授
NPO法人ふらっとコミュニティ🄬 理事長
(株)ふらっとCOMM. 代表取締役
精神障害者やひきこもり者が住み慣れた地域で自分らしく生活するための地域支援を展開している団体。

〈執筆書籍〉
「8050問題 本人・家族の心をひらく支援のポイント」 中央法規出版 2024年
「チームで取り組む ケアマネ・医療・福祉職のための精神疾患ガイド: 押さえておきたいかかわりのポイント」(担当:共編者) 中央法規出版 2020年
など多数