【村上久美子】加算頼みの賃上げは限界 処遇改善加算を基本報酬に組み込むことが、介護の未来を守る第一歩

2026.03.05

介護報酬の「処遇改善加算」の話題が出るたびに、現場には期待と不安が入り混じる。処遇改善加算は賃金の一部を補う仕組みとして重要である。しかし、それは生活を支える「土台」にはなり得ていない。介護の経験を積んだ人が誇りを持って働き続けられる賃金の水準になっていないという現実は、いまも変わらない。【村上久美子】

来年度の臨時改定では、処遇改善加算の対象職種の拡大とともに、介護職員1人につき最大1万9千円の賃上げが見込まれている。ただし、この額には定期昇給分の2千円が含まれており、事業者が昇給を実施しなければ満額にはならない。

厚労省は「基本給での賃上げが望ましい」としているが、実際には手当として支給されるケースが多い。手当は一時金や退職金に反映されず、将来設計にも結びつきにくい。制度の意図と現場の実態のずれが、賃金の不安定さを固定化している。

介護労働安定センターの調査でも、離職理由の上位に「賃金への不満」があげられ続けている。他産業との賃金格差が広がる中、責任の重さに見合わない基本給が続けば、経験を積んだ人ほど現場を離れていく。これは個々の職員の不満ではなく、「続けられない構造」の問題である。

だからこそ、私たちはこれからの賃上げ交渉に強い意志をもって臨まなければならない。加算頼みの賃金構造を改め、経験を重ねた人が安心して働き続けられる体系を築くことは、介護の質を守るためにも、介護従事者の社会的地位を高めるためにも極めて重要である。

しかし、労働組合と事業者との交渉だけでは限界がある。最大の問題は公定価格の設計にある。いまの加算のままでは賃金は安定せず、基本給にも反映されにくい。

賃金の土台を整えるには、処遇改善加算を基本報酬に組み込み、制度として恒常的な賃金の底上げを図ることが不可欠だ。そうしてこそ、毎月の賃金が安定し、一時金や退職金にも反映され、将来の生活を描ける。

近年、派遣や単発バイトなどの時給が常勤を上回るケースが恒常化している。これは地位向上ではなく、人材不足の深刻化の現れに過ぎない。

常勤は重い責任と多くの業務を担いながら基本給は低い。一方、組織を離れて派遣などで働けば責任は限定され、時給は高い。この逆転は「組織に残る人ほど報われない」という歪みを生み、離職をさらに加速させる。

介護の質は、利用者の変化に気づき、その人らしい生活を支えるケアを継続することで育まれる。その継続を支えるのは、安定した賃金である。

介護の賃金問題は、介護職だけの問題ではない。私たち自身の老後や家族、地域社会の安心に直結する課題である。

処遇改善加算を基本報酬に組み込み、賃金の土台を整えること。それが、介護の未来を守るための第一歩である。

提供元:介護ニュースJoint